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SoLグローバルフォーラム:グローバル社会における個人と社会の変容を目指す(1)からのつづきの記事です。
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SoLグローバルフォーラムの冒頭の基調講演では、個人や社会のメタモルフォーゼについての考え方や、現在の組織が直面する課題などについての大局的な考察が、ピーター・センゲ、アリー・デ・グースなどの重鎮と若者グループたちから投げかけられます。30グループに分かれてそれぞれの分野で変化の担い手として活躍する語り部の話に耳を傾け、感じたことを共有するセッションを、午前・午後のそれぞれに行いました。自分の関心に沿ったテーマを見つけ、他者のストーリーを傾聴し、自らを観察します。
頭だけで考える学習は効果が限られますが、アートや感性を加えることで多くの人にとって効果を高めることができます。1日目のハイライトの一つは、写真家ジャーナリストのレザ・デガーティのセッションです。紛争などで苦難を強いられる女性や子どもたちの映像を世界に届ける彼は、同じ現実を見つめながら、私たちのメンタルモデルに新鮮な疑問を投げかけるフレーミングの先駆者です。彼の人道的活動の中でも目を見張るのが、アフガニスタンや難民キャンプなどの子ども、女性たちに写真や映像の撮影の仕方をてほどきし、彼女ら自身の視点で写真や映像を世界に発信する活動です。一人ひとりが自らの人生を切り取って伝える写真や映像のイメージは、背景にあるシステムを鋭くえぐり、見る者の心に刺さります。
全員で参加し、歌とダンスによる共創造のセッションも、学習的な観点で深いものでした。まず冒頭、「音痴でもいいよ、上手に踊れなくていいよ」と敷居を下げながら、発声や体を動かす練習をします。歌とダンスを練習したら、ペアになって、グループになって、互いの勇気ある行動を心からサポートする練習をします。全員で一緒に唱和した後、小グループでそれぞれの個性を表現する演習で締めくくりました。こうした動作は、ほかの人と対話をする上でも、自分自身の魂と対話する上でも、この上なく重要であり、一方で平均的な職場にはほとんど見られない習慣でもあります。こうした時間を過ごすことによって、グループや場全体の連帯感が高まり、感情が高ぶるようなことや、自分にとっての大きなチャレンジでも話しやすくすることが狙いです。
1日目の最後と2日目の午前中は、経済界からのスピーカーが「学習する組織」の実践について経験を語るセッションでした。フランス郵便公社、フランス国鉄、給食・施設マネジメントのソデクソ、化学メーカーのソルベーなどです。それぞれが、対話などの組織学習を活用して、顧客サービスの強化、サステナビリティの推進、新しい企業ビジョンへの組織変容についてストーリーを共有しました。これらの企業の経験から共通点として導かれるキーワードは、「共有する長期ビジョン」「顧客への共感から導くイノベーション」「自然環境、ステークホルダー、新興社会との連携」「現場重視のもと、ローカルレベルとグローバルレベルで同時に行動」「企業を生きたシステムとして捉える新たなガバナンスとリーダーシップ」です。これらのテーマについて、さらに小グループ討論で理解を深め合いました。
さらに、2日目午後にはさらに社会の幅広い問題領域へとテーマを広げ、「新しい企業統治」「新しいリーダーシップ」「新しい経済モデル」「持続可能な社会(学習する都市)」「世界の変容につながる内なる変容」「教育と若者」について話し合います。チェンジ・エージェントの小田も講演者として参加した「持続可能な社会」では、都市や地域レベルでの人々の関心に寄り添いながら変容を進めて行く重要性を共有すると共に、そうしたローカルなレベルでの局所的なごく小さな変容をいかにシステムレベルに広げて行くか、社会変容のティッピングポイントを迎えるには何が必要かについて話し合われました。
こうしたさまざまな関心テーマについて、多様な背景、視点をもつ参加者たちによる対話をさらに深めるためのワールド・カフェが行われます。多くの人は頭の中の混沌を迎えた状況となりますが、それは自らの前提や感情、衝動が何らか動いている時の兆候です。そのときに必要なのは、話し続けることです。混沌の中にある言葉を拾い、誰かに聴いてもらうことによって自ら語り、語って初めてその意味が自分自身にも明らかになるプロセスです。2日目の締めくくりは、場所をフランス商工会議所へ移してのパーティです。主催した商工会議所は、余りもの大人数と対話の熱気に驚いたとコメントをしています。
3日目には、今までを通じて発見、深化したテーマから、いよいよ行動に移すプロセスへと移行します。3日目の基調講演の口火を切るのは、世界の根深い対立や複雑な問題の解決ファシリテーターとして著名な、アダム・カヘンでした。アダム・カヘンは、社会を変えるためには私たちが語るストーリーを変えることだと提唱します。対話をするにあたって、全体性やつながりなどを重視する傾向と個人の動機や自己実現を重視する傾向に二分することができます。それぞれ有用なことではありますが、片方の面ばかりが極端に出てしまうとき、たとえば他者を大切にしようと先回りしすぎて操作的になったり、目的達成の気持ちが強いばかりに暴力的になるなど、かえって害のほうが大きくなることがあります。アダム・カヘンの経験は、私たちの多くが対話の際にどちらかの傾向に頼りがちであり、よい対話を実践するには、片面だけでなく両面を引き出すことが重要と訴えます。その後、国際機関や政府などで働く3人の変化の担い手より、いかに両面からの実践が重要かを考える事例提供がなされました。
フォーラムのクライマックスは、参加者自身の課題を扱うプロアクション・カフェです。2日半に及ぶ対話の末に浮かび上がった問いやアイディアからプロジェクトのタネを見いだして、50人の人たちが次々と壇上で発表します。残りの300人余りの人たちは、興味をもった課題のテーブルに集まり、50人のプロジェクト提供者のために、全員が多様な視点から意見し、問いを投げかけます。プロジェクト提供者はその意見や問いを受け止め、熟慮しながらプロジェクトを磨き上げ、4時間かけてアクション・プランを構築しました。
数多くのプロジェクトを共創した後、あらためて3日間の対話やその成果を振り返って、全員で作る多重の輪の中で心にあることを共有して締めくくります。それぞれが、自分自身をじっくりと振り返り、周りの人たちのおかげで大切な問いやアイディア、覚悟を見いだすことができたことに礼を述べ、3日間の会の幕を閉じました。
(つづく)
次回は、参加しての考察を共有します。