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最近、生物多様性に関するセミナーや講演などでよくお声がけをいただきます。
「生物多様性って、最近よく聞くけど、何? 自分や自分の会社にどう関係あるの?」という方々のために、内外の事例を紹介しながら、現状と見通し、どのようにビジネスリスクとチャンスになりつつあるのか、どのように考えて取り組めばよいのか、をわかりやすく解説する本が出版されました。
『企業のためのやさしくわかる「生物多様性」』
枝廣 淳子・ 小田 理一郎 著 (技術評論社)
他の本にはない本書の大きな特徴は、システム思考で生物多様性を解説している点です。なぜ生物多様性が大事なのか、何が問題なのか、より本質的に理解していただけると思います。システム思考に関心のある方にもお薦めです!
「はじめに」と目次をご紹介します。
企業やNGO、関心のある一般の方に広く読んでいただけたら、と願っています。
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■はじめに
「ネスレ・ウォーターズ、世界で年間10億本販売している天然ミネラル水『ヴィッテル』ブランドを失う?」
「小売大手のホーム・デポ、消費者からの突き上げでブランド・イメージの危機」
「鉄道会社ユニオン・パシフィック、国有林で起こした山火事に対し、今まででは考えられないほど莫大な損害賠償支払いへ」
「JP モルガン・チェースからの融資引き揚げの危機」
「ウォルマートとの取引が継続できない?」
「石油会社シェブロンの錬金術、ルイジアナに放置していた2800ヘクタールの採掘跡地を1億5000 万ドル以上の価値に」
このような実例が、世界のあちこちで増えつつあります。経済や企業の競争力を定義するルールが変わり始めていることを感じませんか?
社会はその時代において、何か「大切にすべきもの」が明らかになると、ルールを変えることによってそれを守ろうとします。
たとえば、温暖化対策の動きがそうです。「安定した気候」という、これまで当然と思っていたものが脅かされるようになった今、それを守るために、気候を不安定にする二酸化炭素などの温室効果ガスに対して、規制をしたり、二酸化炭素に価格をつける排出量取引や炭素税などのルールをつくり出したりして、その排出を削減しようとしているのです。
冒頭にあげたいくつもの例は、社会が何を守ろうと動き出したことを示しているのでしょうか?
「生物多様性」です。フェアトレードや有機栽培の農作物への関心を高め、購入する消費者が増えていること、経団連が「生物多様性宣言」を出したこと、環境省が「生物多様性民間参画ガイドライン」を出したこと、日本でも海外でもさまざまな企業が、「温暖化の次のテーマだ」と言わんばかりに、生物多様性への取り組みを展開し始めていること──。こうしたことからもわかるように、社会は生物多様性を守ろうと動き出しているのです。
しかし、「生物多様性」とは何でしょうか?
「とてもわかりにくい」
「経営層や一般社員になかなか伝えられない」
「自然は大事だとは思うが、それと生物多様性は何が違うのか?」
「なぜ企業が生物多様性に取り組まなくてはならないのか、実感が湧かない」
たしかに、生物多様性はわかりにくいものかもしれません。「こういうことです」とは一言で説明できず、温暖化のようにそのメカニズムを図示したり、二酸化炭素排出量という単一の指標(いうなれば仮想敵)を設けたりすることができませんから。
しかし、社会は今、「生物多様性」が失われることのリスクを感知し始め、対応をとり始めています。日本ではまだ、その動きはあまり目立ったものになっていませんが、グローバル経済に連なる国として、生物多様性がビジネスのリスクにもなり、チャンスにもなる時代が、すぐそこまでやってきています。
温暖化への対応でも同じですが、社会が察知した問題に対する新しいルールが生まれるたびに、先手を打ってビジネスチャンスを見いだしていく企業と、後手に回り、大きなコストを払って他者がつくったルールに従わなくてはならなくなり、ビジネスの存続すら危うくなる企業とが明白に分かれていきます。生物多様性に対しても、企業の反応や対応は大きく分かれていくでしょう。それが次の時代に「生き残れる企業」と「生き残れない企業」を決する1つの分岐点にもなっていくことでしょう。
・生物多様性とは何か?
・なぜ今、社会の関心が高まり、新しいルールが生まれつつあるのか?
・世界の生物多様性の現状と見通しはどうなっているのか?
・企業にとって、生物多様性はどのようなリスクとチャンスをもたらし得るのか?
・先手を打ち始めた企業は、どのような枠組みを用い、取り組みを始めているのか?
本書では、自然保護に関心があってもなくても、企業にとって、そしてビジネス・パーソンにとって、これから目をつぶることのできない取り組み領域となってくる生物多様性について、企業の立場からわかりやすく解説しました。
執筆にあたり、世界資源研究所(WRI)のジョン・フィンドモア氏をはじめ、第7章でご紹介した各企業の方々に、具体的な取り組み事例をご提供いただきましたことを感謝いたします。また、ステキな本に仕上げてくださった技術評論社の佐藤民子さん、編集全般をサポートしてくれた小島和子さん、ありがとうございました。
本書が、すべての人々の生物多様性の理解に役立ち、先見の明とビジョンを持った企業を次の時代の成功者として後押しすることを願っています。
2009 年10 月
枝廣淳子・小田理一郎
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■企業のためのやさしくわかる「生物多様性」目次
第1章 生物多様性とは何か
01そもそも生物多様性とは
「いろいろな生き物がいる」だけではない
生態系の規模はさまざま
02先進企業の生物多様性への取り組み
巨大企業ウォルマートの持続可能性への転換
100%再生可能エネルギーで温暖化問題に取り組む
廃棄物をゼロに
持続可能な商品を販売する
鉱山までさかのぼるトレーサビリティ「ラブ・アース」
店舗面積以上の土地を野生動物保護区に
「エーカーズ・フォー・アメリカ」
ウ ォルマートはティッピングポイントなのか?
ビジネスも生活も、生態系から得られるサービスに依存している
第2章 私たちを取り巻く生態系の今と将来
01「ミレニアム生態系評価」と生態系サービス
研究結果や情報を体系的にまとめた「ミレニアム生態系評価」
生態系サービスという考え方
4種類の生態系サービス
02生態系サービスが重要な理由
ニューヨーク市の水質浄化対策
中国・揚子江を襲った洪水の原因は?
生態系サービスには、どれくらいの経済価値があるのか
生態系サービスは劣化している
03なぜ生態系サービスが劣化するのか?
過度の利用がサービスを劣化させる
生物多様性の喪失の現況
魚が減っている
増え続ける絶滅危惧種
アイルランドの「ジャガイモ飢饉」と種の多様性
生態系サービス劣化の代償
04生態系サービスのもたらすトレードオフとリスク
エビ養殖とマングローブ林の経済性を考える
マングローブ林とエビの養殖、得られる利益はどっちが多い?
マングローブ林が提供する、現金以外の価値の値段
生態系サービスの価値は失われる
突然の急激な変化に耐えられないというリスク
貧困と生物多様性のつながり
最貧国ハイチで進む環境破壊
途上国だけの問題ではない
05生態系は将来どのようになるか?
生態系と人間の福利を考える4つのシナリオ
「生物多様性版スターン・レビュー」が描くシナリオ
第3章 生物多様性をシステム思考で理解する
01システム思考のアプローチ
ダイナミックな複雑性
最初はよくなるが、後で悪くなる
生態系はダイナミックな複雑さを持つシステム
02フィードバック・ループ
行動が、めぐりめぐって自身に返ってくる
変化を強化する自己強化型ループ
変化を安定させるバランス型ループ
さまざまなループの組み合わせ
「食物連鎖」は、何重にもループが折り重なったもの
「競争」のループ構造
人間の行動と生態系の相互作用
03ストックとフロー
ストックとフローの関係
地球の炭素収支をストックとフローで考える
04環境容量を決めるインフローとアウトフロー
環境容量の3条件
05ただちにわかりやすい形で影響が出るわけではない
時間的遅れがある
「遅れ」がもたらす「時限爆弾」
生物濃縮に現れる時間的遅れ
非線形に起こる変化
06「行き過ぎと崩壊」のメカニズム
成長の限界
イースター島の悲劇
急激な変化をもたらすフィードバックの変化
07自己回復力と多様性
「レジリアンス(レジリエンス)」=自己回復力
しきい値と冗長性
対応の多様性が強さを生む
「標準化」に潜む落とし穴
豪ビクトリア州酪農地域の苦難
なぜ今、危機に面しているのか
「複雑性」として問題をとらえると
第4章 世界の動き、日本の動き
01生物多様性をめぐる世界の動き
生物多様性条約
大きな問題をはらむ遺伝子資源と知的所有権の問題
締約国会議の流れ
02生物多様性をめぐる日本の動き
生物多様性国家戦略
100年かけて生態系を回復しようという長期的な試み
生物多様性基本法
第三次環境基本計画
03ますます大きくなる企業の役割と責任
ビジネスと生物多様性イニシアティブ
生物多様性民間参画ガイドライン
民間企業による自主的な取り組み
第5章 ビジネスとどうつながっているのか
01突如として現れるビジネスリスク
世界各地で顕在化するリスク
02生物多様性の動きがビジネスに与える影響
ビジネスへの5つの影響
規制の強化
経済と奨励策
利害関係者との対話・協働
技術の開発と普及
消費者・投資家・従業員の意識の変化
03生物多様性がビジネスにもたらす5つのリスクとチャンス
操業上のリスクとチャンス
規制・訴訟のリスクとチャンス
ブランドのリスクとチャンス
市場・製品のリスクとチャンス
財務のリスクとチャンス
04世界で広がるPES
「ヴィッテル」のブランドはいかに守れたのか
PESの3つのアプローチ
直接の対価の支払い
利用権の取引市場
さまざまな認証制度
環境影響の中立化から、プラス化へ
炭素中立をめざすインターフェイスの「クール・カーペット」
「クール・コミュート」
コカ・コーラが「ウォーター・ニュートラル(水中立)」を宣言
影響をプラスに転じるリオ・ティントの「ネット・ポジティブ・インパクト」
第6章 企業が生物多様性に取り組むための枠組み ── ESR
01生態系の変化に伴うビジネスリスクとチャンスを見いだすためのガイドライン
(ESR)
生物多様性に取り組むための第一歩 ── ESRガイドライン
ESRはどんなときに役立つか
ガイドラインで注目するサービス
02 5つのステップ
項目を絞って進める
ステップ1:範囲の選択
ステップ2:優先すべき生態系サービスの特定
ステップ3:優先すべき生態系サービスの傾向の分析
ステップ4:ビジネスリスクとチャンスの特定
ステップ5:リスクとチャンスに取り組むための戦略の立案
03 ESRを活用している企業の事例
BCハイドロ:生態系サービス評価で関係者間の利害調整を円滑に進める
ステップ1:対象範囲を決める
ステップ2:重要な生態系サービスを特定する
ステップ3:重要な生態系サービスの傾向を分析する
ステップ4:事業上のリスクとチャンスを特定する
ステップ5:戦略を策定する
シンジェンタ:生態系サービス評価で新規ビジネスの創造につなげる
変化するところに大きなビジネスチャンスとリスクが
第7章 日本の先進事例
01 HSBC ── 金融のしくみに生物多様性保全を組み込む
エコロジカル・フットプリントの削減
環境に配慮した投融資
NGOなどへの支援
02リコー ── 中長期計画の中に位置づけ、実効性を高める
森林保全プロジェクト
リコーグループ生物多様性方針
生物多様性の取り組みを支える中長期目標
03積水ハウス ── 里山に学び、地域の生態系を再生する
サステナブル宣言
生物多様性にも配慮した「木材調達ガイドライン」
自生種・在来種を庭に植える取り組み ──「5本の樹」計画
04サラヤ ── 持続可能な原材料調達のために
「環境にやさしい」を問い直す
生態系のつながりを取り戻す「緑の回廊」
05イオン ── 消費者とのコミュニケーションが求められる流通小売の試み
国内小売業初、具体的数値を定めた「イオン温暖化防止宣言」
環境保全型商品の開発・提供
MSC認証/FSC認証商品の販売
「生物多様性 日本アワード」を創設
おわりに
索引
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