事業の継続に関わるような未来の変化をあなたの会社の経営者や社員たちはどれほど予期しているでしょうか? 20世紀の前半、自動車の普及で鉄道事業は弱体化し、ホームビデオの出現で映画産業は斜陽化しました。近年でもまた、デジタルカメラの出現でインスタントカメラやフィルムメーカーの大手が倒産し、液晶モニターの拡大でブラウン管事業が消え去っていきました。技術、資源、規制、顧客の嗜好や競合・代替メーカーの参入躍進といった事態が多くの事業の存続、継続を脅かします。
組織学習の観点から見たとき、多く経営者や社員たちの未来への備えは驚くほどに希薄です。事業計画や戦略の多くは、今日の延長のような未来を描き、想像力をかきたてるものにはなっていません。現実に大きな事業環境変化が起きたときには振り返って、「よもやそのようなことが起こるとは!」といった言葉ばかりが聞かれます。
こうした事業環境の変化に備える上で、世界の企業や政府機関でベスト・プラクティスとなっているのが「シナリオ・プランニング」です。この手法は、複数の異なる未来の可能性を探ることで、関係者の未来に関する理解を広げ、不確実な環境変化への適切な適応策を見いだすアプローチとして活用されてきました。中でも、OPECやベルリンの壁の崩壊などの変化を予期し、的確な備えを組織内に築くことで躍進したロイヤル・ダッチ・シェルでの活用事例は特に著名です。
シナリオ・プランニングの鍵は、戦略策定、意思決定をするマネージャーや社員たちが、事業環境の変化やその影響についてその意味を十分に理解することにあります。未来への備えや適応の不備は、変化に関する情報や知識の欠如によって起こるのではなく、そうした変化が何を意味するのか、今何をすべきなのかを意思決定する者たちの想像力の不足のために起こるからです。シナリオ・プランニングは、起こりうる未来の具体的な展開のイメージをシミュレーションし、記憶する学習プロセスであるともいえるでしょう。
40年以上にわたり実践されてきたこの手法は、「適応型シナリオ・プランニング」とも呼ばれます。複数の異なる未来のシナリオがあったとき、そのどのシナリオも同等に起こりうるものとして作られ、意思決定者たちにそのシナリオを受容し、適応することを迫るからです。現実に多くの企業にとっては、社会、市場、技術、規制などにおける動向には影響を及ぼすことは容易ではありません。そして、多くの意思決定者たちは、未来を選択できないことにフラストレーションを覚えます。
このフラストレーションに対して、世界的に活躍するシナリオ・プランナーのアダム・カヘン氏は近年新しいソリューションを提示しました。それが2012年発表の「トランスフォーマティブ(変容型)・シナリオ・プランニング」です。未来への適応ではなく、未来の変容・創造を目指すこの手法では、同じ確率で起こるとされるシナリオ群の中から、もっとも望ましいシナリオの実現を目指します。
その実現は単独の企業や自治体だけでは前述のごとく不可能です。そこで、変容型シナリオ・プランニング手法は、未来を変えるのに十分なだけの、多様な利害関係者を集めた「マルチステークホルダー・プロセス」と呼ばれるアプローチをとります。例えば、官民学公などセクターをまたがる地域の関係者たち、サプライチェーンの川上から川下の事業者たち、地域に集まる産業クラスター、地域圏の自治体のネットワークなどです。
しかし、こうした多様な利害関係者たちは、たとえ未来へのフラストレーションや懸念を共有したとしても、その多様さゆえに目的も利害も一致しないことが多くあります。ウィンウィンを目指すはずの連携や協働も、この目的や利害の不一致によってうまくいかないことがしばしばです。
変容型シナリオ・プランニング手法では、適応型シナリオ・プランニング手法を発展させて、ダイアログ手法とUプロセスの考え方を取り入れます。このダイアログ手法やUプロセスは世界の組織で人材開発・組織開発などに活用されており、組織能力を高める上で欠かせないものとなっています。中でも、アダム・カヘン氏がリードした食料システムの持続性のために食品関連企業、生産者やNGO、シンクタンクなどが協働する「サステナブル・フード・ラボ」の事例はわずか数年で飛躍的な成果を多く残したことで知られています。
目的や利害が一致しないが未来への懸念を共有する関係者を集めるこのプロセスでは、参加者たちの理解を広げ、新しい関係性を築き、そして、自らの新しい意図、目的の発見を行います。共に構成する対話の場のなかで、理解の変容、関係性の変容、意図の変容が起こり、それを基盤として単独、共通での行動変容を促すプロセスです。
本年11月6~8日、アダム・カヘン氏を招聘して、変容型シナリオ・プランニングのプロセスをどのようにデザインし、ファシリテーションを行えばよいかを学ぶセミナーを開催します。企業、政府、市民セクターで、複雑な社会における政策・事業戦略立案や組織・社会の変革・変容を目指す方々を対象として、体験ワーク用テーマを設定して、プロセスを実際に体験しながら学ぶワークショップ形式で進行します。体験ワーク用テーマには、「『働く』の未来」を設定して、多様な背景をもつ参加者のみなさんと一緒にシナリオを構築、活用していくプロセスを実践し、混迷を深めるこれからの時代に未来を創り出していくための重要なスキルを身につけます。
このセミナーでは、複数の有効な手法を組み合わせているゆえに、それぞれの手法メリットと統合したメリットを提供します。
シナリオ手法を学ぶことで
● 戦略策定・事業計画立案プロセスに斬新さと想像力を取り入れる
● 大局を読む力を高め、事業継続や新規事業案件発掘のための具体的なイメージを浸透させる
● 意思決定者たちの事業に関する理解を広げ、準備力、適応力を高める
ダイアログ手法を学ぶことで
● 多様な利害関係者間での共通理解を広げ、関係性の質を高める
U理論を学ぶことで
● 本質的な目的への気づきを促し、主体的に行動する関係者を増やす
システム思考を学ぶことで
● 変化を制御あるいは加速する構造を理解し、的確な働きかけを考える力をつける
変容型シナリオ・プランニング手法を学ぶことで
● 変化に翻弄される組織から、変容や共創を組織風土とする組織への変革を図る
● 社内外の利害関係者たちとのエンゲージメントの質を高め、関係性と打ち手の幅を広げる
世界で多くの変革の実績を残し、変容型シナリオ・プランニング手法とU理論を構築したカヘン氏本人から日本語の通訳で変容型シナリオ・プランニング手法のエッセンスやスキルを学び、変革リーダーシップには欠かせないファシリテーターの「あり方」そのものに触れるまたとない機会です。また、ダイアログやシステム思考の活用に実績をもつ講師がカヘン氏をサポートします。この得がたい機会を活用して、共に学ぼうという方々のご参加をお待ちしております。