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【講演録】共有価値を創造するシステム・リーダーシップとは(1)システム・リーダーシップのフレームワーク/小田理一郎

2015年05月26日

(先月、チェンジ・エージェント10周年記念シンポジウム(2015年4月25日)を開催しました。小田の基調講演の内容を数回に分けてご紹介します。)

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皆さん、こんにちは。チェンジ・エージェントの小田と申します、本日はシンポジウムとして、「組織や社会を変容するためのリーダーシップを考える」というテーマで設定しましたが、この会、この場にいらっしゃっていただき、本当にありがとうございます。少なくない方に遠方から来ていただきまして、今、私自身の心境としましては、「朋有り、遠方より来たる。また楽しからずや」という言葉が、今朝ほどからわき上がってきています。朋と言わせていただくには失礼かもしれませんけれど、ここに集まった、日本の未来のためのチェンジ・エージェント、あるいは志を共にしている人たちと、今日、変容のためのリーダーシップということを一緒に考え、話し合えることをとても喜ばしく思っております。

  今日は、この後、私のほうから最初にお話をし、僭越ではありますが、今日のテーマに関してフレームワークみたいなことを提供させていただきます。事例を交えてお話しする予定ですけれども、少しわかりやすい事例ということで、海外の事例を中心にしています。 

「システム・リーダーシップ」とは

 本日のテーマである「組織や社会を変えるリーダーシップ」ないし「システム・リーダーシップ」ということに関して最初に定義しますと、システム・リーダーシップとは、システム規模での変革・変容を生み出す、そのために必要となるような、集合的なリーダーシップです。1人のリーダーシップではなくて、集団としてのリーダーシップを人々の間にはぐくむリーダーをシステムリーダーと呼んでいます。 「システム」と言うと聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれませんが、相互作用を持った要素の集合体はすべてシステムですので、たとえば、チームとか職場とか組織とか市場とか社会とか、みんなシステムです。実は個人とか、上司と部下とか夫婦とかもシステムなので。要は、いろんな相互作用が行われて、ダイナミックな力を持っているものはすべてシステムと考えてもいいかもしれません。

 「組織や社会を変容する」というと、やや大上段に聞こえるかもしれませんけれども、簡単に言えば、私たち自身と、私たちの周りの人たちの間にはぐくまれた、現実世界をより良い状態にするということをシステムを変えるリーダーシップとして捉えています。皆さんが取り組むシステムの規模が、家族のことであれ、小さな職場のことであれ、部門であれ、あるいは企業全体であれ、地域であれ、それぞれの違った規模でも、システムというものがどう変わるか。それを考えていきたく思います。

変化がなかなか起こらない____ 集団のなかで起こるジレンマ

 では、早速ですが、今日のシンポジウムのテーマに関して簡単なフレームワークを紹介していきます。そのフレームワークを考えながら、3つの、私が尊敬するチェンジ・エージェントの先人からの事例のお話をして、ストーリーテリングのお二方にバトンタッチしていきます。今日のテーマの前提は変化・変革・変容を起こすことにあります。ただ、私たちは、こういうことを話すときに、無自覚であれ、自覚的であれ、今の状態が何かしら良くなくて、それが良い状態に変わることを前提として持っています。良い方向に変化していく。だから変化が必要だということです。 ところが、先ほど、組織のことを見ても、社会を見ても、みんながそう思っているわけではないということです。その変化を、皆が「それは素晴らしい。すぐにやろう」ということだったら、きっとそういう変化はすぐに起こっていると思います。でも、そうでないから、なかなか変化が起こらない一因と言えるでしょう。

 このことにチェンジ・エージェントが無自覚でいるときは、かえって暴力的になったり、かみ合わないことがあったりするかもしれません。誰にとっても変化が望ましいことと言えるか。それがどんな変化であったにしても、現状に対して何とか適応している人。現状というのは、それが良かれ悪かれ、過去の歴史とか感性とか惰性があって成り立つ形をつくっています。良かれ悪かれ、システムがそのように振る舞うには常に理由があるわけです。その理由を外れて違う所に行くときに必ず起こる問題は、変化には必ずコストやリスクを伴うということです。多くの変化を受け入れなければいけないという立場の人は、これがとても面倒くさい、嫌だ。自分は変われるだろうかと不安になる。恐れが出る。こんなことがよくあったりします。多くの人にとって変化そのものを創り出そうとするとき、本質的に自分が変わらなければいけないということに向き合わなければいけません。これが変化に関するジレンマです。 もちろんこれは、変化が必要だということを認識できた、合意できた場合の話です。まして変化に合意しない状況では、そんな変化が起きては困る、現状ですでに既得権益を得ている人は、そんなの、変えられたら困るという場合もあるでしょう。

変化の普及、その過程にある「溝」や相互作用

このように、組織の中を見ても、社会の中を見ても、変化に対する態度や行動は一様ではありません。このことを最も端的に表しているのが、ロジャーズのイノベーション普及理論ではないかと思います。

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 アイデアであれ、製品であれ、行動習慣であれ、それぞれの人がその変化を受け入れるか、採用するかのタイミングは、いの一番に飛び付く改革者みたいな方がいて、それから早期採用者と言われる人たちが導入し、それから前期と後期とありますけれども、主流派が変化を採り入れます。大半の人はこの主流派の中にあって、ある程度前例ができて、周囲に広がって、初めてその変化を受け入れていくのです。遅延者の人たちは、周りが全部変わったので、しょうがなく変わるかという人もいるでしょうし、いつまでも抵抗したり、選ばないということもあるかもしれません。この遅延者にどの程度普及するかによって、大体としては8割とか9割ぐらいの変化の普及になっていくのがしばしばです。
(注:こうした変化に対する行動や態度は、何が変化の対象になっているかによって同じ人が違う役割になることが普通です。ですから、イノベーターやトランスフォーマーがあらゆることに対して、その分類に入ることはなく、文脈に依存します)

 大体、どんな技術でも製品でも、あるいは組織の中の文化の変化でも、こういったことが起こるということが知られているわけです。ここで、変化に対する態度や行動のセグメントがあるだけではなくて、セグメントの間には溝があったり、あるいはセグメントの間で何らかの相互作用が起こることがよくあります。

「溝」をつなぐ重要な役割を担う、変化の担い手(チェンジ・エージェント)

私たちの同志でもあり、EU大統領の科学技術顧問をしていたアラン・アトキソンは、システムの変化にとても造詣が深くて、社会であれ、組織であれ、文化が変化するときにどうなるかということを、アメーバのメタファで説明しています。

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 たとえば新しいアイデアというのは、たいてい「イノベーター」がそのイノベーションの創り出したり、発見したりします。改革者が、新しいアイデアを取り込もうと動くことで、細胞の外壁が動き、その動きに一緒に付いていくのが「変化を起こす者」、トランスフォーマーたちです。ちなみにその時点では、細胞の大半の部分や核の部分は、なかなか動きだしません。特に核というのは、全体が動いて初めて動いていくことが多いわけです。細胞が動いているときでも、こちらでは保守派とか、反動主義派とか、ひねくれ者とかいたりする。組織や社会の中ではあったりしがちです。こうしたさまざまなプレイヤーの間でいろんな相互作用が起こるわけですけれども、特にここで重要な役割をするのが変化の担い手、つまりチェンジ・エージェントです。

 大体、発明者とか、イノベーションをいち早く捉えてを提案するイノベーターは、とてもその新しいもののことをよく知っていて、技術的な側面とか、形とかにとてもこだわっています。自分の理想を強く持っていて、「これはこうであらねばならない」と強く思っています。しかし一方で、そのメリットを、アメーバのほかの細胞にうまく伝える力を持っていないことが多いです。変わり者だからこそ新しいイノベーションを見つけ出しますが、変わり者だからこそ、なかなかそれを他の人に伝えられないという、ジレンマを持っているのがイノベーターによく見られる傾向です。

 それに対して、変化を担うチェンジ・エージェントは全然違う考え方をします。まずアイデアは、自分が創った、あるいは最初に発見したわけではないですから、形を変えることに関しては抵抗がありません。伝えるときも、どちらかと言うと、伝える相手にとって、それがどういうメリットがあるのかとか、どういう意味があるのかとか、ニーズとかメリットに焦点を置いてコミュニケーションすることができます。仕様がどうだということは二の次なわけです。「これをやると、こういいよ」といったコミュニケーションがとれるのです。

変化を促進させるために、見極めるべきポイント

 変化の担い手というのは、しばしば起こる溝(キャズム)を埋めるとても重要な役割をしてくれますが、変化の担い手が最初につなげたいところはトランスフォーマーと言われる変化を起こす人たちです。新しいアイデアがあって、イノベーターの人が「これはいい」ということを形にしたとしたら、それを最初に導入してくれる人たちがトランスフォーマーたちです。この2つのセグメントをつなげることが大事で、これはなかなかイノベーター自身にはできないことが多いのです。 

 変化の担い手が組織で苦労するときというのは、たとえば主流派と話しているときです。そのときには、どんなに説明しても、「うーん、頭ではわかったんだけど、理屈はわかるんだけど、だけど......」と、やらない理由をたくさん挙げるんですね。「それをやると、これ困る」というようなことが、どんどん出てきます。 その人たちにわかってもらうことは重要ですが、ここであまり時間を使っても大変ですし、まして反動主義者とか、保守派とか、とにかく何でも反対しようというひねくれ者とか、こうした人たちは、場合によってはチェンジ・エージェントを疲弊させようと思って、わざとどんどん攻撃を仕掛けてくることがあったりします。 だから、その人が本当にどういう意図で言っているかを見極めないといけませんが、どうもこの人は邪魔することが目的かなとか、どうもこの人はエゴでこんなことを言っているなと、見極めたときは、ムダな時間を使わないように上手に時間配分を考えないといけません。そういった意味では、変化の担い手の重要なスキルの1つは、自分が対象としているシステムの中の誰が、それぞれどういう変化への態度を持っているか、誰が得して損するか、誰がどういうふうに考えているか、といったことをつぶさに観察し、よく頭に入れておかねばなりません。

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