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学習する組織入門(4)「メンタル・モデル」

2007年10月11日

メンタル・モデルとは:「こうやったら、ああなる」という頭の中のイメージ

「メンタル・モデル」とはなんでしょうか? 平易にいえば、私たちの頭の中にある世の中の模型のようなものです。

真南にある太陽を見ているとき、私たちはその太陽が右(西)の方向に向かって動いていくだろうことを予測します。なぜならば、私たちは、太陽が東から昇り、西に沈むと「知っている」からです。

もっと科学に造詣のある方は、太陽に対して地球が自転をしている様子を頭に描くでしょう。地球の表面で私たちの立っている地点が東の方向に動きます。太陽は同じ位置にあるままですが、動いている私たちから見ると、電車の車窓に映る風景と同じように、進行方向と逆方向に動いていくのです。それゆえ、太陽の位置が西に向かっていくことを予測できるのです。

ここでの太陽や自転している地球は、その実物があなたの頭の中にあるわけではありません。しかし、私たちはさまざまな事象について、そのモデルをつくることによって、「こうなったら、ああなる」と、その働きや作用についてイメージします。その頭の中で形成されるモデルがメンタル・モデルなのです。

事実ではなく、模型(モデル)の予測

メンタル・モデルは、自然の事象に対してだけなく、社会や生活の中での事象にも使っています。家族や友人に何かを伝えるとき、「これを伝えらきっと怒るだろうな」とか、「これをしてあげたら喜ぶだろうな」とか考えますね。このとき、みなさんの頭の中に家族や友人はもちろん入っていません。ただし、みなさんが模型としてつくったモデルが入っていて、みなさんはその反応を予測するのです。

ビジネスもまた、メンタル・モデルを活用して日々の意思決定や行動をとっています。顧客はこんな商品を求めているとか、この商品のこのポイントをこういう風に説明すれば、よい反応が得られるだろうと考えます。さらに、自社のとる戦略に対して、競合や新規参入の可能性のある会社がどう出るか、あるいは行政などが規制などをどのように変えていくか、など、さまざまなプレイヤーについてのモデルを構築します。そして、トランプや将棋で自分のもち手と他のプレイヤーの出方をあれこれ考えるように、頭の中でこれらのモデルがどのように作用するかを考えているのです。

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人が無意識下で行う7~8割の行動の判断軸

メンタル・モデルは、私たちにとっての世の中の見取り図となって、日々の行動の助けとなります。メンタル・モデルにしたがって行動をし、それがうまくいくと、その行動を繰り返します。この繰り返される行動は、やがてメンタル・モデルを意識しなくともほぼ自動的に行われるようになっていきます。実際、私たちは生活や仕事において、行動の7~8割は無意識下で行動し、顕在意識で考えてとる行動は2~3割に過ぎないといわれています。

メンタル・モデルは、私たちの過去の体験や学習をもとに形成されています。私たちの人生経験そのものであるといっても過言ではないでしょう。社会経験も豊富になると、さまざまな場面で使われる実に多くのメンタル・モデルが存在します。この豊かなメンタル・モデルのおかげで、私たちは日々の一連の行動のほとんどを自動化できるのです。残りの自動化できない部分に関して、身の回りの状況から必要な情報を探し出し、メンタル・モデルで処理をして、その状況下ではどのように行動すべきかの判断をしています。

すべてのメンタル・モデルは、実は間違っている?なぜ?

しかし、どんなに社会経験が豊富な方であったとしても、世の中がすべて思ったとおりに、予測したとおりに動くでしょうか。あるいは、みなさんの子どもや部下は、みなさんがこうしなさいといえば、いつもみなさんの思い通りに動くでしょうか。それはありえませんよね。現実には多くの場合、メンタル・モデルによる想定や予測とは異なった結果をもたらします。

これは私たちのメンタル・モデルの限界を表わしています。どんなに優れたメンタル・モデルであっても、けして完璧ではありません。むしろ、すべてのメンタル・モデルは間違っているのです。

それは、メンタル・モデルがあくまでも世の中の見取り図として頭の中でつくった模型だからです。たとえば、地図は、現実の地形や建物などを、一定のルールで単純化して表わしています。この地図は単純化しているゆえに、普段持ち歩くことも、短い時間で必要な情報を探し出すことができます。しかし、地図は現実そのものではありません。同じように、メンタル・モデルは単純化している故に、私たちの記憶にとどまり、日々の行動の指針として役に立っているのです。同時に、メンタル・モデルが現実と同じことはないのです。

ダブル・ループ・ラーニング

現実世界でうまくいかない場合、私たちは学習することで、次の行動の改善につなげようとします。たとえば、PDCAサイクルのように、計画策定、実行からその結果をモニターして、計画との乖離について評価、そして行動や計画そのものの見直しのアクションを起こします。これはもっとも基本的な学習で、「シングル・ループ・ラーニング」と呼ばれます。

より高次の学習は、メンタル・モデルそのものの見直しです。先ほどのシングル・ループにもうひとつの学習ループを付け加えることから「ダブル・ループ・ラーニング」といいます。メンタル・モデルはインプットからどのようなアウトプットするかの因果関係を決めますが、メンタル・モデルが間違っていたら、いつまでたっても思うようなアウトプットが出てくるわけがありません。メンタル・モデルそのものの修正が必要なのです。

メンタル・モデルを見直し、可能性を広げる

しかし、メンタル・モデルの修正というのは簡単ではありません。なぜならば、私たちが意識している行動は2~3割に過ぎないゆえに、そもそも自分がどのようなメンタル・モデルを持っているかもわからないのです。さらに、現実の状況からどのような情報を得るのか、その情報をどのように解釈するのかもすべてメンタル・モデルによって大きく影響を受けます。このマクロレベルで無意識に働いているメンタル・モデルというのは、なかなか気づくものではありません。

学習する組織を進める上では、メンタル・モデルという概念を理解した上で、自分がどのようなメンタル・モデルを持っているのか、どのような影響を与えているのかについて考えるためのさまざまなメソッドやツールを活用します。たとえば、「推論のはしご」、「左側のセリフ」などのツールがよく使われます。また、システム思考のツールである「ループ図」も、自分たちのメンタル・モデルを見つめなおし、可視化し、話し合うためにとても有効なツールです。

天動説から地動説のメンタル・モデルに変わることで、当時行き詰まっていたヨーロッパは大航海時代の幕開けを迎えました。自分自身のメンタル・モデル、とりわけパラダイムと呼ばれるより深いレベルで働くメンタル・モデルに気づくとき、大きな学習となってさまざまな可能性を広げるのです。  

(メンタル・モデルについてもっと読み進めたい方は、こちらの記事「メンタル・モデルから自らを解き放つ」もどうぞ。)


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